家庭と学校で取り組むプラスチックごみ削減:児童が行動を変える具体的なステップ
はじめに
海洋プラスチック問題は、地球規模で深刻化している環境課題の一つです。私たちの日常生活で排出されるプラスチックごみが、海へと流れ込み、生態系や人間社会に様々な影響を及ぼしています。この問題に対し、次世代を担う子どもたちが、家庭と学校という身近な環境から具体的な行動を起こし、主体的に問題解決に参加できるような教育が求められています。
本稿では、小学校の先生方が児童の行動変容を促し、家庭との連携を通じてプラスチックごみ削減に取り組むための具体的な授業のヒントや実践例をご紹介します。
海洋プラスチック問題と私たちの生活との繋がり
海洋プラスチックごみの多くは、私たちが陸上で使用したプラスチック製品が適切に処理されずに河川などを経由して海に流れ込むことで発生しています。買い物袋、食品容器、ペットボトル、そして衣類から出るマイクロプラスチックなど、その種類は多岐にわたります。
これらのプラスチックは、海洋生物が誤って摂取したり、絡まったりすることで命を脅かすだけでなく、細かくなったマイクロプラスチックは食物連鎖を通じて人間にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。
この問題を児童に伝える際には、決して他人事ではなく、「自分たちの身の回りにあるプラスチックが、どのようにして海に行き着くのか」「自分たちの行動が、どのように問題解決に貢献できるのか」という視点を持たせることが重要です。
児童への伝え方:行動変容を促すためのアプローチ
児童に環境問題について教える際、過度な危機感を煽るのではなく、問題の全体像を理解させ、具体的な解決策や自分にできることを提示することで、前向きな行動へと繋げることが大切です。
-
身近な事例から関心を喚起する:
- 自分たちが使っているプラスチック製品について考える機会を設けます。例えば、給食の牛乳パックや、文房具、おもちゃなど、日常に溢れるプラスチックの存在を再認識させます。
- 問いかけ例: 「皆さんが今日持ってきたものの中で、プラスチックでできているものは何ですか。それはどんな時に使いますか。」
-
プラスチックの「良い点」と「悪い点」を両面から学ぶ:
- プラスチックが私たちの生活を豊かにしてきた側面(軽く、丈夫で、衛生的など)も理解させ、その上で、適切な利用と処理の重要性を教えます。
- 問いかけ例: 「プラスチックの良いところは何ですか。もしプラスチックがなかったら、どんな困ることがあるでしょうか。」
-
具体的な行動例を提示し、選択肢を与える:
- 「プラスチックを使わないようにする」という漠然とした指示ではなく、「マイボトルを持つ」「エコバッグを使う」「詰め替え製品を選ぶ」など、具体的な行動例を複数提示し、児童が自分にできることを見つける手助けをします。
- 問いかけ例: 「明日から皆さんができるプラスチックごみ削減の工夫はありますか。それはどんなことでしょうか。」
授業での実践例と具体的なステップ
1. 導入:学校・家庭でのプラスチックごみ調査(全学年向け)
- 目的: 児童が日常で排出されるプラスチックごみの種類と量を認識し、問題意識を持つ。
- 活動内容:
- 学校ごみ調査: 1週間の給食や掃除で出るプラスチックごみを分別し、種類(ペットボトル、食品トレー、ビニール袋など)ごとに量を記録します。
- 家庭ごみ調査: 児童に家庭から1週間で出るプラスチックごみを観察・記録するよう依頼します。保護者の方にも協力をお願いし、写真や簡単なレポートを提出してもらっても良いでしょう。
- 学年別調整案:
- 低学年: プラスチック製品の「種類探しゲーム」や、ごみ箱の中のプラスチックを数える活動など、視覚的に分かりやすい内容に重点を置きます。
- 中学年: 分別やリサイクルのマークを学び、ごみがどこへ行くのかを考えるきっかけとします。
- 高学年: 記録したデータから、最も多いプラスチックごみの種類や、その原因について考察し、グラフなどで表現させます。
2. 発展:プラスチックごみ削減チャレンジ(中学年・高学年向け)
- 目的: 児童が具体的な行動目標を設定し、実践を通じて行動変容を体験する。
- 活動内容:
- 目標設定: 調査結果に基づき、「マイボトルを毎日使う」「お菓子の袋を減らす」「詰め替え製品を使う」など、個人またはグループでプラスチックごみ削減目標を設定します。
- 実践と記録: 設定した目標を1週間~1ヶ月間実践し、その成果や感じたことを記録します(例: プラスチック削減チャレンジシート)。
- 発表と共有: 期間終了後、各々が実践した内容や困難だった点、発見などを発表し、クラス全体で共有します。
- 家庭との連携:
- 「プラスチック削減チャレンジ」の趣旨と目標設定を保護者に伝え、家庭での協力と応援を依頼します。
- 保護者向けの啓発資料(プラスチック削減のヒント集など)を配布し、家庭全体での取り組みを促します。
3. 応用:代替品や未来の素材を考える(高学年向け)
- 目的: プラスチック問題の多角的な側面を理解し、持続可能な社会の実現に向けた思考力を育む。
- 活動内容:
- 素材探究: 現在使われているプラスチックの代替となる素材(紙、竹、バイオプラスチックなど)について調べ、それぞれの特徴や課題を比較検討します。
- アイデアソン: 「もしプラスチックが使えなくなったら、何で代用できるだろう?」というテーマで、児童がグループでアイデアを出し合い、新しい製品やサービスを提案する活動を行います。
- SDGsとの関連付け:
- SDGs(持続可能な開発目標)の目標12「つくる責任 つかう責任」や目標14「海の豊かさを守ろう」と関連付けて、自分たちの取り組みが地球規模の課題解決にどう貢献するかを学びます。
授業で活用できる教材ヒント
- 視覚教材: 海洋プラスチックごみの写真や、マイクロプラスチックの拡大写真(インターネット上の信頼できる情報源から引用)、ごみが漂着する海岸の映像など。
- 実物教材: さまざまなプラスチック製品や、代替素材(木製品、竹製品、紙製品、ガラス製品など)を実際に手に取って比較する。
- 実験キット: マイクロプラスチックを簡易的に観察できるキットなどがあれば、より具体的な理解を深めることができます。
- ワークシート: ごみ調査記録シート、プラスチック削減チャレンジシート、アイデア出し用シートなど。
まとめ
海洋プラスチック問題への教育は、単なる知識の伝達に留まらず、児童が主体的に考え、行動し、持続可能な社会の担い手となるための重要なプロセスです。家庭と学校が連携し、具体的なステップを踏んで取り組むことで、子どもたちの意識と行動は大きく変わっていくことでしょう。
小さな一歩であっても、それぞれの家庭や学校での実践が積み重なることで、やがて大きな変化を生み出す力となります。この活動を通じて、子どもたちが海の未来を守るための大切な一員であることを実感し、未来に向けて行動し続ける心を育むことを願っています。